大型鋳造部品の設計:強度と剛性を確保する
- hshirae
- 2024年12月25日
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更新日:2月4日
はじめに:大型鋳造部品の設計における重要性と課題
大型鋳造部品は、製造コストの削減、複雑な形状の一体成形、設計自由度の高さといった利点を備えており、様々な産業分野で広く利用されています。しかし、その大きさゆえに、強度不足、変形、欠陥の発生といった課題も抱えています。これらの課題は、製品の性能や安全性を損なう可能性があり、適切な設計が不可欠です。
強度設計の基礎:応力、ひずみ、安全率

強度設計を行う上で、応力、ひずみ、安全率といった基本的な材料・鋳造に絡む概念の理解が不可欠です。
応力: 部材に外力が作用すると、内部には抵抗力が生じます。この抵抗力を、単位面積あたりで表したものが応力です。応力は、外力の大きさ、方向、作用面積、部材の形状などによって変化します。単位は、パスカル (Pa) またはニュートン毎平方メートル (N/m²) で表されます。
ひずみ: 部材が外力を受けた際に生じる変形の度合いを示す尺度です。ひずみは、元の長さに対する変形量の割合で表され、単位は [%] となります。
安全率: 部品の強度をどの程度余裕を持って設計するかを示す指標です。安全率は、材料の強度を、部品に実際に加わる応力で割ることで求められます。安全率が大きいほど、部品の安全性が向上しますが、大きすぎると材料の無駄や重量増加につながる可能性があります。
大型鋳造部品の強度計算:FEM解析を活用した設計最適化
大型鋳造部品の強度を評価する際には、FEM解析 (有限要素法解析) などのシミュレーション技術が広く活用されています。FEM解析とは、コンピュータを用いて複雑な形状の部品を小さな要素に分割し、それぞれの要素の応力やひずみを計算することで、全体としての挙動を解析する手法です。FEM解析を用いることで、試作品を作ることなく、設計段階で強度を評価し、設計の最適化を図ることが可能になります。
例えば、大型鋳造部品に実際に荷重を加えた時の応力分布や変形の様子を、FEM解析の結果を用いて図示することで、強度設計の重要性を視覚的に理解することができます。
材料選定:鋳鉄の種類と特性、用途に合わせた最適な選択
大型鋳造部品の材料選定は、強度、剛性、耐食性、コストなど、様々な要素を考慮する必要があります。鋳鉄は、炭素含有量や黒鉛の形状によって、様々な種類に分類されます。
鋳鉄の種類と特性
ねずみ鋳鉄:炭素が片状の黒鉛として存在する鋳鉄です。
メリット:安価、鋳造性が良い、切削加工しやすい
デメリット:強度、靭性が低い
用途例:マンホールの蓋、機械のベース
球状黒鉛鋳鉄:炭素が球状の黒鉛として存在する鋳鉄です。
メリット:高強度、高靭性、耐摩耗性に優れる
デメリット:ねずみ鋳鉄に比べて高価
用途例:自動車部品、工作機械部品
可鍛鋳鉄:ねずみ鋳鉄を熱処理することで、黒鉛を塊状化させた鋳鉄です。
メリット:ねずみ鋳鉄よりも強度、靭性が高い
デメリット:球状黒鉛鋳鉄に比べて強度が低い
用途例:パイプ継手、バルブ
その他:
アルミニウム合金鋳物:軽量で耐食性に優れるが、強度が低い。
用途例:自動車部品、航空機部品
マグネシウム合金鋳物:さらに軽量であるが、耐食性や強度が低い。
用途例:携帯電子機器の筐体、自動車部品
材料選定のポイント
材料選定にあたっては、以下のポイントを考慮する必要があります。
要求される強度・剛性: 使用環境における荷重や変形量を考慮し、必要な強度・剛性を満たす材料を選択する必要があります。
耐食性: 使用環境における腐食性を考慮し、耐食性の高い材料を選択する必要があります。
コスト: 材料価格、加工性、入手性などを考慮し、コストパフォーマンスの高い材料を選択する必要があります。
材料 | メリット | デメリット | 用途例 |
ねずみ鋳鉄 | 安価、加工しやすい | 強度、靭性が低い | マンホールの蓋、機械のベース |
球状黒鉛鋳鉄 | 高強度、高靭性、耐摩耗性に優れる | 価格が高い | 自動車部品、工作機械 |
可鍛鋳鉄 | 複雑な形状に適している | 強度が低い | パイプ継手、バルブ |
アルミニウム合金鋳物 | 軽量で耐食性に優れる | 強度が低い | 自動車部品、航空機部品 |
マグネシウム合金鋳物 | さらに軽量 | 耐食性や強度が低い | 携帯電子機器の筐体、自動車部品 |
大型鋳造部品における寸法と形状の設計:リブ、フィレット、肉厚

大型鋳造部品の寸法と形状は、強度と剛性に大きな影響を与えます。
リブ: リブを追加することで、板厚を厚くすることなく剛性を高めることができます。リブは、荷重を分散させ、変形を抑える効果があります。リブの形状、配置、数などを最適化することで、効率的に剛性を向上させることができます。
フィレット: 角部にフィレットを設けることで、応力集中を防ぎ、強度を向上させることができます。フィレットの半径を大きくすることで、応力集中を緩和する効果が高まります。
肉厚: 部品の肉厚を適切に設定することで、強度と重量のバランスを最適化することができます。肉厚が厚すぎると重量が増加し、薄すぎると強度不足になる可能性があります。FEM解析などを用いて、最適な肉厚を決定することが重要です。
鋳造欠陥:発生メカニズムと対策
大型鋳造部品では、その大きさゆえに、鋳造欠陥が発生しやすくなります。主な鋳造欠陥としては、引け巣、ブローホール、ピンホールなどがあります。
引け巣: 凝固過程で溶融金属の体積が収縮することにより発生する空洞です。
対策:押湯の設置、凝固速度の制御
ブローホール: 溶融金属中に溶解していたガスが、凝固時に放出されることにより発生する空洞です。
対策:溶湯の脱ガス処理、鋳型のガス抜き
ピンホール: ブローホールよりも小さな空洞です。
対策:ブローホールと同様
まとめ:安全で高性能な大型鋳造部品の設計
大型鋳造部品の設計は、強度と剛性、材料特性、鋳造欠陥への対策など、多岐にわたる要素を考慮する必要がある複雑なプロセスです。
安全で高性能な大型鋳造部品を設計するためには、材料力学の基礎知識、強度計算方法、適切な材料選定、形状設計のポイントなどを理解し、それらを総合的に判断する必要があります。FEM解析などのシミュレーション技術を積極的に活用し、鋳造加工の専門家のアドバイスを受けることも重要です。
鋳造部品の設計でお困りの際は、ぜひ光洋鋳造にご相談ください。
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